21歳になった宅間は突然、運送屋を始めると言って、自宅の庭にプレハブ小屋を立てて、運送業を始めようとするも失敗。それもそのはずで、宅間はズブの素人で、仕事の取り方も分からず、何の計画性もなく始めたものだから、仕事にすらなりませんでした。
宅間もその事は分かっていた様で、本人が言うには「希望的観測」で思いつきで始めたそうです。宅間はこの「希望的観測」に基づいた行動が非常に多いです。事件を起こす1、2年前にも当時服用していた薬が体に合っていたらしく、「勉強に適した頭になった」と言って、司法書士になる為に、テキストを買い込んで、学校に通い出します。しかし、そんな思いつき程度でなれるような職ではないと分かったのか、はたまた気が変わったのか、すぐに諦め、今度は宅建を取ろうとしますが、これも断念しました。
宅間が行動する時はその動機として、この希望的観測という言葉がよく聞かれます。無計画に衝動的に行動を起こすので、成果としてはなかなか実らないのですが、宅間は欠点でもあり、長所であると語っていました。
実際に市バスの運転手の職を得る事ができたり、ねるとんパーティーで高学歴の女性達と肉体関係を持つ事が出来たりと、行動力がある故に、美味しい思いも沢山していました。本人の言葉通りだと思います。
父親は毒親だったのか?
話が少しズレますが、ここで宅間の父親に触れておきます。というのも上で語った宅間の希望的観測には常に父親が援助しているという点があるからです。
宅間が運送屋を始めると言ったときに庭にプレハブ小屋を立ててあげたのも、司法書士になりたいと言った時も100万もの金を出してあげたのも父親です。宅間が何かしたいと言えば、ポンっとかなりの額のお金を出しています。
この事件が起きた当初、マスコミは宅間が父親から暴力を振るわれて育った事に注目して、事件の責任は父親に原因があるのではと騒いで、父親は凄まじいバッシングに晒されたそうです。私はこの点に疑問を持っています。果たして宅間の父親は、今でいう毒親だったのかと?
結論を言うと私的には毒親でないと思っています。確かに宅間の父親が暴力を振るっていた事は事実です。今なら間違いなく毒親だと思います。しかし宅間の父親の年齢や育った環境も考えなければなりません。
宅間の父親は今生きていれば90歳を超えています。バリバリ戦前生まれです。今の毒親達とは生まれた時代があまりにも違います。戦前生まれは今みたいにハラスメントや体罰なんて概念はない時代の人です。また宅間の父親の父は明治生まれです。実際、宅間の父親も厳しく躾けられていたそうです。この世代では体罰なく、育てられる方がレアなのでは思います。私の親(宅間と同年代)も、躾で折檻を受ける事が、家や学校では当たり前の時代だったと言っていました。
40年、50年前ですら、体罰はごく普通に行われていました。大正、明治生まれなら尚更、当たり前の様にあった事を考慮しなければなりません。宅間に暴力を振るうのも、躾の一環という意味が強いかと思われます。当時の背景を考えずに今の基準で考えると、この時代の親は全員毒親になってしまいます。
怒鳴って殴るだけなら毒親認定で良いかと思いますが、宅間の父親はなんだかんだ言って、宅間に庭にプレハブ小屋を立ててやったり、司法書士の学校に入るのに必要だろうと100万も金を出しています。その後、21歳の時に絶縁を言い渡しますが、それも真っ当な理由で、強姦事件を起こした挙句、詐病で精神病院に入るのを狙う為に、母親に芝居を打つ様に頼んでおきながら、入ったら、なかなか出れない事を知り、母親に逆恨みをして、刑務所に入った際に慰謝料の請求までしています。
宅間の父親は「親に慰謝料を請求する(しかも逆恨み)とは許せない」として絶縁を言い渡しました。とは言っても宅間が泣きながら電話してきた際には話してやったりと、絶縁だと言いつつも、完全にそうしてはいないです。絶縁した理由の一つとして、宅間が警察沙汰ばかり起こして、毎回警察から呼び出しを受けて、迎えに行くなど、対応に困っていたそうです。宅間の父親は一時期、崖から一緒に車で落ちようかとまで考えていたそうです。
他の大量殺人犯やシリアルキラーの生い立ちを見れば、むしろ恵まれている部類ではと思います。宅間の父親は毒親と言うよりも、昔気質の頑固な人に見えます。私は金川真大や山地悠紀夫の親の方が毒親だと思います。
5階からの飛び降りを決行
21歳の時の宅間はマンションの管理人をしていたらしく、職業上マンションの部屋の合鍵を持っていました。その合鍵を使って、気になっていた住人の女性の部屋に押入り、強姦しました。
知能があまり高くない殺人鬼によくある事なのですが、妙な第六感が働くというか、動物的勘に優れている事が多々あり、警察の捜査を察知して、犯行場所を変えたり、犯行を自制するといった事を無意識にやる事があります。
宅間も例に漏れず、警察の捜査が迫っている事を察知して、逃れる為の一手を打ちます。詐病をして、精神病院に入院して、不起訴になる事を考えました。母親と一緒に温泉旅行に行った際に、演技に付き合うようにお願いしています。その後宅間は、「声が聞こえる」と言い、母親は宅間から暴力を振るわれていると口裏を合わせて、自ら精神病院に入院しました。
宅間は精神病院を警察の目を誤魔化す為の避難場所くらいにしか考えていなかったそうですが、入院すると地獄だったようです。宅間は、
「あんな鍵かけられて無茶苦茶やられる所や、とは思っていなかった」
「何かしたら縛られる」
「薬を飲むと、よだれバーッと出てくるし、何かソワソワソワソワしてイライライライラして」
「早朝覚醒するし」
「看護人に、あんなんやったらお前、何年間も入ったけ、とか言われ」
と拘束&薬漬け&措置入院状態で、逆に身動きが取れなくなりました。また薬の副作用が強く、本人が言う様にソワソワ、イライラとしてしまう、いわゆるアカシジアに苦しまされました。
私も何度かこのアカシジアに苦しめられた事があり、サインバルタを飲んでいた時は本当に辛かったです。本当にソワソワして、じっとしていられず、一日中家の中を往復していました。またイライラしてしょうがなかったです。人の行動の何かもかもが気に触れました。焦燥感も凄まじく、全てが不安になり、怖くなります。心拍が上がって、ドキドキしました。思い出すだけでもかなり恐怖です。アカシジアは症状が辛くて、衝動的に自○する人もいるくらい、かなり辛い物です。
宅間の場合はただでさえ衝動的なのに、アカシジアによって更に衝動性が高まったらしく、病院から脱走する目的で、精神病院から飛び降りてしまいます。それも5階からでした。
当然無事で済むわけもなく、全身のありとあらゆる所の骨が砕けて、折れてしまいます。死ななかったのは奇跡なレベルです。更に輪をかけるように詐病作戦は失敗してしまい、懲役3年が言い渡されて、刑務所に収監される事になりました。
無差別殺人への原点
宅間はこの飛び降り事件が後に起こす無差別殺人へのきっかけになったと言います。
「五体満足で無傷でも色々クソ面白くない、精神的にハンディ背負ってるような人間」だったのに、「その上に大怪我して」、「後遺症が残った」「人生に対して投げやり、やけっぱち、絶望」した事により、「できるだけの奴に不愉快な思いいうか無茶苦茶してもうたろう」
と思ったそうです。「五体満足で無傷でも色々クソ面白くない、精神的にハンディ背負ってるような人間」の私はこの気持ちは大いに分かります。ただでさえ気に入らない自分の人生が、よりダメになったら、他の幸せに生きている人が憎くて仕方なくなります。同じ人間なのにどうしてこうも差が生まれるのだと。どうせ人生詰んだなら、社会の人達に一矢報いたくなります。
「羊たちの沈黙」のレクター博士のモデルとなった、アメリカのシリアルキラーである、ヘンリールーカスも犯行を起こした理由として、同じ様な事を言っていました。
「俺だけあんな酷い女(母親であるヴィオラの事)の元に生まれ地獄を見てきた。このツケはしっかりと世の中の奴らに払ってもらわなきゃいけない」
大量殺人者やシリアルキラーの動機は上手く行かない上に受け入れてもくれない社会への復讐が動機の一つとしてあるのではと思います。人生が上手く行かない理由が社会にある(自分の責任がある部分があるとしても)以上は文字通りツケを払わせたくなる気持ちは私も分かります。完全に自分だけが悪いなんて事はない、社会にも責任があるのに、それを努力不足とか自己責任で片付けて、誤魔化そうとする社会に分からせてやりたいという気持ちが出てくるのは不思議ではないと思います。
宅間は拘置所で、「ダンプで商店街を走り、人を轢き○す」「女子高生を強姦して、屋上から飛び降りさせる」「空港のロビーで無差別に○す」と後々に起きる数々の事件を言い当てているかの様な、発想を巡らせていました。
刑務所に入った宅間は汗が飛んだ、挑発してくると喧嘩をふっかけては独房にぶち込まれていました。素行も悪く、独房にずっといた宅間は仮釈放も降りずに満期で出所しています。
また出所後に御巣鷹山の飛行機事故があった際に、バラバラの遺体が見たいという理由で、遺族だと嘘をついて、御巣鷹山で一泊しています。誰しも多少そういったアングラな興味を持つ事はあるとは思いますが、実際にやろうとしません。宅間には恐れというものが無いのか、人生どうでも良すぎて、やる事やってやろうみたいな思考のどちらもあるとは思います。
事故後の宅間はとにかく荒んでいて、煽り運転した上に、相手の運転手に暴力を振い、止まっている車があれば、キリでタイヤに穴を開け、車体に傷をつけて回っていたそうです。他にも犯罪を繰り返し、捕まりそうになると精神病院に入院して、心神喪失として不起訴処分になっています。
これだけ破天荒な男ですが、結婚においてもそうでした。次回に続きます。